乳がんのホルモン療法に強敵あらわる
がん細胞の増殖を促進する
ESR1の変異と27HC
乳がんの70%ほどは、女性ホルモン受容体が陽性でホルモン療法が有効です。最近は、乳がんの新しい分類(サブタイプ分類)から女性ホルモン受容体陽性乳がんをルミナール(管腔型)乳がんと呼んでいます。ルミナール乳がんはAとBに分けられ、ルミナールB乳がんではAより再発が多いことが知られています。今年2月に札幌市医師会学会があり、当院のルミナール乳がんの患者さん227例を7年半追跡した結果を発表しました。やはりルミナールB乳がんで再発が有意に多いという結果でした。
ホルモン剤が効かなくなることを、ホルモン抵抗性といいます。乳がんのホルモン抵抗性の獲得は、主に細胞内での伝達シグナルが混線して、ホルモンシグナルが来ていないのに、増殖シグナルが進行してしてしまうからと考えられてきました。しかし最近、女性ホルモン受容体の一つであるエストロゲン受容体αの遺伝子自体(ESR1)が変異することが判明しました。(ネイチャージェネティックス 2013年12月号)。ホルモン剤でシグナルが止められたので、ホルモン剤がなくても増殖シグナルを伝えるように変異するのです。まったく、がん細胞の驚くべき賢さというしかありません。
もう1つ、ホルモン抵抗性をもたらす原因が最近わかりました。コレステロールです。コレステロールの主要な代謝産物である27-ヒドロキシコレステロール(27HC)が直接エストロゲン受容体に結合してがん細胞の増殖を進めるのです(サイエンス 2013年11月29日号)。記事によれば、コレステロールを27HCへ変換する酵素の発現は、高悪性度乳がんのがん細胞と腫瘍関連マクロファージ(貪食細胞)に高レベルでみられることが分かりました。したがって、流血中コレステロールを下げることや27HCへの変換を妨げることが、今後のホルモン陽性乳がん治療の有益な戦略となると述べています。LDLコレステロールの高い人は、コレステロールを下げるスタチンの内服が乳がんの予防・治療になる可能性が大です。担当医の先生へ一度相談してはどうでしょうか。